
「鉄道」に関する記事一覧


日本の路面電車
路面電車の走ってる町にいくつも住んだので路面電車には一家言ある。……と思っていたんだが、いきなり「路面電車萌え」とか書かれてしまうと多少たじろぐ。そんなもんにまで「萌え」かよ。しかし考えてみると、広島に住んでいた時、路面電車が四つ角を曲がってくる時の、巨大な青虫(緑色の車体なのです)がぐわーと体を曲げてるようなサマは、確かに胸をキュンとさせる魅力にあふれていた。 こんな本が出るところを見ると「路面電車に“ああ……もうたまりません”とあえいでしまう」人は案外多いんでしょうか。 北から南まで、日本を走るすべての路面電車を詳しく紹介してある。見ているだけで楽しい。路面電車というものがなぜこう胸をときめかせるかというと、「軌道」が決まっていて「そこをはずれることができない」という不自由さ、しかしそれがふつうに自動車とともに走っていて信号で止まる、という倒錯性。倒錯とまで言ってはますます理解を得られないか。もっとわかりやすく言うと、畳の上を土足でズカズカ歩く時のタブー感というか……さらにわからないかもしれませんが、とにかく路面電車って、セクシーな物体なのだ。萌え、というのもよくわかる。 各地の路面電車が走っているところの写真が満載なので「路面電車が走りそうな風景」もよくわかる。大都会でも地方都市でも、なんだか微妙に「狭い」。むりやりそこにちん入している。その狭さが、路面電車のない都市よりも親しみやすさみたいなものをかもし出しているとわかります。 路面電車は古い車輌でナンボ、と思っていましたが、ここに紹介される「最新型超低床車輌」を見ていると、それはそれでなかなかいいなと思えるようになった。超低床車って、文字通り床が低いから、地面をぬるぬると滑っているように見えて、その「ありえなさ」がさらに、路面電車のエロチックさを増すようで、こういう進化もアリなのだなあと感動できます。




秘境駅の歩き方
「秘境駅」とは、鉄道の駅でありながら、駅を出てもそこに人家も道もない、というような「存在価値は奈辺(なへん)に?」と思わせる駅のことをいう。この秘境駅を世に知らしめたのが鉄道ファンの牛山さんという人で、文庫で出た秘境駅シリーズは、鉄道に興味もないのに夢中で読んでしまった。 いっとき、赤瀬川原平の「トマソン」(美しく保存された無用の長物的ひさしや塀や階段など)が面白がられたが、秘境駅もそれと似たものかもしれない。トマソンは無用物であり、秘境駅は「ちゃんと使われている」という大きな違いはあるものの。たとえば、一日に一本も列車が停車しない駅で駅員が改札口に座っている場合はトマソン駅になるかもしれないが、このご時世、そういうノンビリした物件は生き残れないだろう。 この本は、「秘境駅シリーズ」の続編であるようだ。ただし、狭い日本に秘境駅が無限に湧いてくるわけはないので、文庫で紹介されていた「超弩級の秘境駅」のようなものは出てこない。でも、そこは「ちょっと興味深い秘境駅」が、自分のうちから2時間ぐらいで行けるとしたら、こんどの休みはそこに家族で、と考える人も出てきそうだ。そこで、今回はもう一人共著者として西本さんという鉄道ライターが入り、「秘境駅までの旅行プラン」を提案している。私などはただ、秘境駅の存在を文章と写真で楽しむだけだが、行ってみたいと思う鉄道ファンや旅行愛好家がいるだろうから、これはいい方法かもしれない。ただ、近辺に何もないことを喜べる人ならいいが、そうでない人を連れていったりすると紛争になりそうである。 本書の中で「誰もいない入り江の奥にある」秘境駅として、「東京からも十分日帰り可能」な三陸鉄道北リアス線・白井海岸駅が紹介されている。おお、今、旬の、三陸海岸! しかし紹介文の中には「あまちゃん」の「あ」の字も出てきやしないという、そのストイックさ。鉄道ファンの心意気を見た思いがした。
特集special feature




東京鉄道遺産 「鉄道技術の歴史」をめぐる
子供の頃、千葉の海に潮干狩りに行ったことがあり、その時に外房線に乗った。両国から乗り込んだのだが、その両国駅の有り様がいまだに頭に焼き付いている。「まるで黒澤明の『生きる』のドブがあふれている町のシーンのよう」というイメージ。昭和40年代とはいえ両国駅がそんなんだったはずがなく、そう思ったのは、いつも自分が使う駅の様子ではなかったからだろう。 なぜか昔の思い出というのは駅にまつわるものが多く、きっと駅舎や電車、改札口とかがシンボリックなので記憶に残りやすいのだろう。鉄道マニアじゃなくても、古い駅の思い出の一つや二つはみんな持っている。この本を見つけた時は、中身も見ないで買ってしまった。懐かしい思い出に出会えそうな気がしたから。 それぞれ「駅」「橋梁」「高架橋」「トンネル」にわけて、今も残る明治・大正・昭和の鉄道遺産を紹介。駅の項で、上野駅のコンコースがあり、あの巨大な広場とブキミな(としか思えない)壁画を今も残していることに嬉しくなり、やっぱり今の子供もあの壁画が忘れられなくなるのかと思ったりする。内部はいろいろ現代に対応してるのに、外側および雰囲気はいつまでも上野駅なのはえらい。 鉄橋も高架も、有史以前からそこにあります、といった感じでがっちりとその土地の地面に食い込んじゃっているものがある。それも神田とか有楽町とか、いかにも地価の高そうな場所に。神田とか新橋周辺がいつまでも、ある種の垢抜けなさを保っていられるのは、あれらの鉄道遺産のおかげだろう。トンネルもここにある写真で、入り口の石積みとかそこに覆いかぶさる木立なんかの思い出がいきなり鮮明に蘇ったのは驚いた。トンネルって結構印象的なんですね。 ところで、私の頭の中にあるあの両国駅。もしかして写真が載ってないかと思ったがなく、自分の記憶に不安が生じている。何か別のものと混同してるのだろうか。あの時の両国駅に誰か連れてって。

