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試合中にキスの餌食に!? 実況アナが綴る「プロレスの世界」が面白すぎる...
ここ数年、プロレスの人気が再燃しているようだ。プロレス好きからしたら「なにをいまさら」と思うかもしれないが、今まで全く触れてこなかった者からすれば「なぜ?」という疑問がふと浮かび上がるだろう。 プロレスといえば「野蛮」「過激」「痛々しい」など、どちらかと言うと悪いイメージばかり。とてもじゃないが、「お金を払ってまで見たい!」という気にはなれない。いや、今は「なれなかった」と言うほうが正しいだろう。エッセイ集『コブラツイストに愛をこめて 実況アナが見たプロレスの不思議な世界』(立東舎)を読み終わったあと、今まで抱いていたプロレスのイメージが一変。プロレスの奥深さや魅力、そして実況アナの存在意義に「面白い!」と思わずにはいられなかった。 本書の著者は、フリーアナウンサー・清野茂樹氏。2015年に新日本プロレス、WWE、UFCと世界三大メジャー団体の実況を史上初めて達成した、現在のプロレス実況の第一人者だ。 プロレス実況とは文字通り、プロレスの実況をすること。試合でどんな技が飛び出し、どっちが勝ったかを説明していく。しかし清野氏が言うプロレスと、今まで抱いていた「野蛮なスポーツ=プロレス」のイメージはだいぶ異なる。彼は本書の中で、「プロレスはスポーツではない」と語っていた。 「『試合』や『選手』というスポーツのような表現があるのに、演劇のような『セリフ』があったり、お笑いのような『お約束』があったり、ファッションショーのような『派手な入場』もあるという、いろんな要素が混じっているのがプロレスなのです。プロレスは『エンターテインメント』なのに、最後は『試合』として勝ち負けがつくという、他に類のないライブパフォーマンスです」(本書より) 上記の文章を読むと、確かにあまりスポーツらしくない。スポーツというよりはスポーツ要素を織り交ぜた舞台のようにも感じる。さらに清野氏は、続けてこう綴っていた。 「プロレス実況に求められることは、野球実況やサッカー実況より、むしろ、プロレスラーそのものに近いと思います」(本書より) つまりプロレスを実況する側もプロレスと同様、さまざまな要素が必要になってくる。スポーツアナウンサーとしてしゃべることもあれば、映画コメンテーターの如く話すこともあったり、時にお笑いのツッコミ役をするような部分があったりと、多様な要素が合わさって初めて「プロレス実況」というものが成り立つ。 もちろん実況に台本などなく、実況アナから発せられるのは全てアドリブの言葉。ただ、しゃべりの材料として「実況資料」を用意するそうだが、それすらも奪われてしまうことがある。清野氏のデータブックを奪ったのは、正体不明のマスクマン「エル・デスペラード氏」。場外乱闘の際に、凶器として使うため清野氏のノートを奪ったそうだ。その時に清野氏が発した実況は以下の通り。 「うわっ、私のノートが奪われてしまいました! タイツの中に隠し持っています! あーっと、私のノートで脳天に一撃!!」(本書より) 正直、ノートを奪われるくらいならまだマシなほうだろう。時にレスラーたちは試合にアクセントをつけようと、実況アナに襲いかかる。清野氏が最も印象的だったと語るのは、マキシモ(現:マキシモ・セクシー)というメキシコ人レスラーが放送席にやってきた時のこと。マキシモは男性へのキスを得意としているそうで、その時は清野氏の隣にいた解説者のミラノコレクションA.T.氏がキスの餌食に......。 「あっと、ミラノさんの唇が奪われてしまった!! マキシモのディープキスだ!! あっ、ミラノさんが目を閉じて崩れていく!!!」(本書より) レスラーから目をつけられたら最後、実況アナが取れる行動は主にふたつ。逃げるか、受けるかのどちらかだ。レスラーは強くて乱暴な自分を見せたいのだから、誰かがライオンに襲われるインパラを演じなければならない。今なら清野氏が言っていた「実況アナはプロレスラーそのものに近い」という意味が分かる気がする。 また、会場を盛り上げるレスラーたちも一人ひとりが魅力的。たとえば「スイーツ真壁」としてお馴染みの真壁刀義氏は今でこそ大人気だが、若手時代はいろいろと悔しい想いをしてきたという。 「学生プロレス出身のため、若手時代は先輩から認められず、道場の風呂場で悔し涙を流していたという真壁さんは、コツコツ実力を積み上げてチャンピオンにまで上り詰めました。『やられてやられて、そこから立ち上がる姿を見せるのが本物のプロレスだ』という真壁さんの言葉は、きっと自分の体験に基づくからこそ、ファンにも伝わるんでしょうね」(本書より) 今までレスラーたちがどのようにプロレスと向き合ってきたのかを考えたこともなかったが、それを知るだけでプロレスの見方も随分変わってくる。おそらくこの先、真壁氏が勝利を収めるたびに心から歓声を上げるだろう。 たかがプロレス、されどプロレス。知れば知るほど、その深みにハマっていくばかりだ。

仕事、恋愛、お金... 人生をよりよくする「考える技術」の身につけ方とは?
突然ですが、クイズです。皆さんの目の前におにぎりが1個あるとします。具材は鮭、梅、昆布、ツナマヨのどれかですが、外からはまったく見えません。さて、このおにぎりの具が何かを調べる方法は......? この問題、すぐにいくつかの方法を思いつく人もいれば、まったく何も出てこない人もいるでしょう。ここで必要になってくるのは「考えること」。けれど、ただやみくもに考えていても、時間だけが過ぎて答えにたどり着けないことも多いものです。 そこで『パン屋ではおにぎりを売れ 想像以上の答えが見つかる思考法』の著者・柿内尚文さんは「考える技術」が必要だと言います。「考える技術」とは、目的を達成するための思考法のこと。私たちはこの武器を磨くことで問題を解決できたり、新しい価値を生み出すことができたりすると柿内さんは述べています。 では、具体的にはどうやって「考える技術」を身につければよいのでしょうか? まず、本書には「考えるとは『広げること』と『深めること』である」(本書より)ということが大前提として出てきます。「広げる」とは可能性を考えていくことであり、「深める」とは本質的価値を考えていくことだそうです。 これを踏まえたうえで、実践的な思考法について学べるのが、第3章の「『考える技術』を思い通りに使いこなす」です。 たとえば「考え方を広げる方法」のひとつとして紹介されているのが「ずらす法」。これは、すでに存在するものに「価値の再定義」をすることで新しい価値を生み出すという手法です。 本書の冒頭には、こんな問題が出てきます。「男子校に通う高校生の男の子がいます。彼は女の子にモテません。彼の望みは、たくさんの女の子と友だちになること。どうしたら彼は女の子の友だちをつくることができるでしょうか?」。 この答えとして柿内さんは「文化祭の研究課題という名目で『女子校研究会』を立ち上げ、その研究という『大義名分(言い訳)』を武器に、街頭で女子高生にアンケートを実施し、声をかけ、何人もの女の子と友だちになれた」と書いています。 実はこれは柿内さんの実体験だそうで、これも「ずらし法」を使ったもの。「自分自身驚いたのは、たくさんの女友だちができたことよりも、考えたアイデアが自分の悩みを解決してくれたことでした」(本書より)と記しています。 ほかにも考えを広げる方法として「かけあわせ法」や「数珠つなぎ連想法」、考え方を深める方法として「360度分解法」「ポジティブ価値化」「キャッチコピー法」などを紹介。これまで数々のベストセラーを生み出してきた柿内さんが、自ら体得してきた「考える技術」を惜しげもなく教えてくれています。 「考える技術」は仕事で使うものだと思う方もいるかもしれませんが、それ以外にも恋愛、お金、家族など、いろいろなことに活用可能です。また、発想の転換という意味で考えれば、落ち込みにくくなったり、物事に対してポジティブになれたりするなどの効果も。このスキルを磨いて損になることはないと言えるでしょう。 まずは皆さんもご一読を。そのうえでふたたび冒頭のおにぎりのクイズに挑戦してみてください。もしかしたら頭の中にすんなりと答えが思い浮かんでくるかも?


座りっぱなしで「疲れたな」と思ったら... 「首・肩・背中」が軽くなるストレッチ
肩コリ、首コリ、腰痛......。一日中座りっぱなしのデスクワーカーの誰もが避けては通れない厄介な問題です。マッサージも有効な手段ですが、それでも取れないコリや痛み。どうすれば解消されるのでしょう。 本書『座り仕事の疲れがぜんぶとれるコリほぐしストレッチ 首・肩・腰が軽くなる』の著者で、ストレッチトレーナー・なぁさんは「マッサージは対症療法。ストレッチは改善」と指摘します。マッサージは一時的に血流がよくなるものの、張りや痛みの原因「骨格のゆがみ」や「硬くなった筋肉」は解決しないといいます。つまり、ストレッチこそ"普通の体"に戻る近道なのです。 そもそも、座っているだけで疲れるのは、「首」「肩」「腰」はもちろん、「太もも」や「ふくらぎ」など、多くの筋肉の硬直による血流の悪化が主な原因です。 例えば、パソコン画面を見た場合。上半身は背中を支える「脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん」、背中の一番表層にある「僧帽筋(そうぼうきん)」、目に関する筋肉「眼輪筋(がんりんきん)・皺眉筋(しゅうびきん)」。下半身では、ふくらはぎの筋肉「腓腹筋(ひふくきん)」、太ももの筋肉「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)・ハムストリングス」。これにキーボードを打つ動作を加えると、さらに多くの筋肉に負担がかかることに......。 では、こうした筋肉をほぐすには、どのようにストレッチをすれば効果的なのでしょう。本書の中でなぁさんが「部位別」にレクチャーしています。 その一つが、デスクワークで「なんか疲れたな」と思ったらしたい、首から肩、背中につながっている筋肉「僧帽筋」をほぐす簡単ストレッチ。「肩コリ」だけでなく「首の重だるさ」や「背中の張り」にも効くといいます。お試しあれ。 ■STEP1 「両指を組み、後頭部にセット。高さはおでこあたり」 ■STEP 2 「肘を内側に絞り、首を真下に向ける」 ※ほぐしポイント 内側に引っ張らず、真下に落とす。 ■STEP 3 「頭を真下に落としていくと、首の後ろ、背中が伸びる」(本書より) 足の冷えを取る方法、猫背の改善法、自己流の筋トレの問題点など盛りだくさんの本書。全27のストレッチを実践することで、あなたも「疲れにくい体」をつくりませんか?

コロナショックで生き残るためのヒント 「企業再生のプロ」が語る、その極意とは?
全国で緊急事態宣言が解除されてから1カ月半が過ぎました。とはいえ、新型コロナウイルスの感染対策をしながらの新しい生活様式は続いています。経済活動も徐々に元に戻りつつありますが、第2・3波の感染拡大の懸念は拭えません。第2波の影響により2回目のロックダウンをおこなう国も出てきました。 こうした新型コロナがもたらした危機的状況「コロナショック」を分析し、どう生き抜いていくか、そして日本経済の復興シナリオを提示したのが、本書『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』です。 著者の冨山和彦氏は、外資系戦略コンサルタントを経て、産業再生機構のCOOとして日本経済の危機に向き合い、JAL、カネボウ、ダイエーなどの再建に携わった"企業再生のプロ"。そんな冨山氏が本書でまず、経済の現状を分析します。 経済は「L(ローカル)」「G(グローバル)」「F(フィナンシャル)」の3段階で重篤化。リーマンショックとは違い、より広い産業と地域に長期の危機をもたらすといいます。 第1波「L」は、日本のGDPの約7割を占める観光、宿泊、飲食、小売りなど基幹産業群への大打撃。中堅・中小企業がメインであり、非正規社員やフリーターが占める割合も多く、被害は甚大なものに。 第2波「G」は、自動車や電機などのグローバル企業への影響です。消費者の消費停滞や売上低下による打撃、そして部品・材料などの関連企業への波及。さらに、その余波が大企業に紐づく地域のものづくり産業をも巻き込むことに。 第3波「F」は、企業の売上低迷が融資回収の見込みの低下を引き起こし、不良債権化の可能性が高まること。バブル崩壊やリーマンショックのように金融システム全体が機能しなくなるリスクをはらんでいます。 冨山氏は、「中国頼みの回復には期待できない」としたうえで、「これから本格化するGの世界の第2波をどう受け止めるか、が勝負だと思っている」と経済危機の重篤化回避の要だと指摘します。日本企業が生き残るヒントについても、「修羅場の経営の心得」と「修羅場の『べからず』集」と題して、惜しみなくレクチャーしています。 国や企業の危機だけでなく、個人が生き残るにはどうしたらいいのでしょう。本書で冨山氏は、主に2つ「歴史に学ぶ」と「修羅場の経験」をアドバイスしています。 前者は、過去の危機で何をもたらし、どのように常識が破壊されたのかを知っておくことが、不幸になるリスクを低減することにつながるとのこと。例えば、過去の危機の際には、大企業や有名ブランドなど安定に走りがちですが、実は危機後には凋落するケースが多かったといいます。だからからこそ、「当該組織固有のスキルではなく、世の中全般にどこでも通用する、誰にでも説明できる能力を磨いておくこと」を助言しています。 後者は「本気で将来マネジメントリーダーを目指したい20代、30代」と限定したうえで、勤務する会社が危機に陥っているなら、「ギリギリまで会社に残ること」を勧めています。若いうちにビジネスの本質やドロドロの人間関係など、「普段はなかなか見られない"見るべきもの"」を見られるチャンスだというのです。冨山氏は「MBA10回分に勝るケーススタディーの機会」と強調します。 「危機は必ず終わり、日はまた昇る」。そんな言葉も"企業再生のプロ"だからこそ説得力があります。冨山氏は「ポストコロナショック」を見据えたビジネスや働き方など、さまざまな変化から「今までよりも幸せな生き方を実現できる時代がやってくる」とも予測。コロナ禍を耐え忍んだ先にある明るい未来のために、本書でサバイバル術を学んでみては。

"伝説"や"誤解"が人々を惑わせる!? 長い歴史の中で「幻の世界」が生まれたワケ
科学技術の発展やネットワークの普及により、多くの謎が解明された「地球」。今でこそさまざまな情報を入手できるものの、数百年前の人々はどのように"世界地図"を作りあげてきたのだろうか。 コロンブスがアメリカ大陸を発見したのはわずか530年ほど前のことで、紀元前ともなれば海より先は未知の領域。そのため長い歴史を紐解くと、"伝説"や"探検家の誤解"などから生まれた「幻の世界」も数多く存在する。今回ピックアップしたエドワード・ブルック=ヒッチングの『世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語』は、そんな"幻の地図"の間違いや嘘が暴かれる刺激的な一冊だ。 同書に収められた古地図の中で、「アトランティス」の名前は誰もが知るところではないだろうか。古代ギリシャの哲学者・プラトンが記した伝説の島であり、今なお実在していると信じて疑わない人も多い。プラトンは強大国の傲慢さを揶揄した「寓話」として物語を生み出しており、のちにアリストテレスはアトランティス伝説を"作り話"だと一蹴。また、エドワードも以下のように説明した。 「プラトンはおごれるものの寓話を見事に描いたが、あまりにも緻密な描写とアトランティスをめぐる熱狂のため、物語が持つ真の意味はかき消されてしまったようだ」(本書より) 海に沈んだとされるアトランティスだが、伝説の島と同様に広大かつ深淵な海洋の世界も人々を惹きつける。オラウス・マグヌスによる北欧地図「カルタ・マリナ」は奇怪な姿をした生物があちこちに描かれ、神秘性に満ちた大作として1500年代から語り継がれている。海に棲む未知の生物は今でもロマンをかき立てるが、オラウスの意図は海洋生物に関する科学的知識を世界に広めることにあったようだ。 「登場する生物の中には、明らかに実在の生物の姿をねじ曲げたようなものもあるし、神話にしか登場しないような生き物もいる。だが、このような怪物たちを16世紀の船乗りたちは信じ、恐れてきたのだ」(本書より) また、人々の心を魅了してやまないのは"黄金伝説"も同じで、南米の黄金郷「エルドラド」は特に有名なスポット。1598年に作成された「神秘と黄金のギアナ国最新地図」には実在しない湖にエルドラドがあると記され、頭のない人間や南米の動物たちが空想的に説明されているという。エルドラドの伝説は多くの探険家を翻弄することになったが、黄金を求めた彼らの冒険心は現代の"トレジャーハンター"にも通じているのではないだろうか。 一方で科学が進歩を遂げているはずの1800年代に、アメリカのオーランド・ファーガソン教授は「地球平面説」を提唱した。ファーガソン教授に限らず地球平面説は古くから唱えられており、「ヨハネの黙示録」には「わたしは大地の四隅に四人の天使が立っているのを見た」との一文が。「四隅」を文字通りに捉えれば、世界は平面であると支持できるという。しかし地球が球体であることは誰の目にも間違いのないことであり、"想像力"を超えた"科学力"が既に証明している。 「最終的に地球平面説は疑似科学として科学の外に追いやられることになったわけだが、時おりファーガソン教授のような固い信念を持つ人物によって復活させられ、表舞台に現れてくることがある」(本書より) 1700年代に"存在を確認された"とヨーロッパに伝わったのは「パタゴニアの巨人」。イギリスのジョン・バイロン船長率いるドルフィン号が、新天地では身長2.6mもある住人ばかりが暮らしていたと報告したのだ。 巨人伝説の元を辿ると世界1周を遂げたマゼラン艦隊の目撃証言が由来であり、ドルフィン号からの報告が証言を裏づけたことになる。ところがフランスの一流新聞社は巨人の目撃談について、イギリス船による"金目当て"の活動から目を逸らすための作り話だと報道。巨人と目された先住民も身長は1.8mほどで、エドワードは以下のように補足した。 「当時のヨーロッパ人の平均身長は5フィート5インチ(1.6m)しかなく、先住民の人々はとても大きく見えたのだろうが、『巨人』と呼ぶほどではなかったといえる」(本書より) 多くの人々を翻弄してきた偽りの歴史。誇大な想像力やエゴが生み出してしまったと言っても過言ではないが、だからこそ物事の真偽を正しく持つ目が必要とされるのではないだろうか。伝説を追い求めることにロマンを感じるかもしれないが、"最初から存在しないもの"に踊らされることのないよう心がけたい。

動物のイメージをまるっと覆す!? 動物行動学者が教える、生き物たちの真の姿
相手の見た目や雰囲気だけで「この人は〇〇だ」と決めつけてしまうことはないでしょうか? 強面な人は近づきがたかったり、メガネをかけている人は賢そうに見えたり、外見から多くの情報を得られるため、つい無意識に相手のことを決めつけてしまいがちです。その対象は人間だけでなく、動物に対しても同じことがいえるかもしれません。 「カラスはずる賢い」「サメは狂暴」......こうした印象は多くの人がなんとなく共通して持っているものかと思います。しかし「その形にどんなイメージを喚起されるかは人間の問題であって、生物の責任ではない」というのが、『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』の著者・松原 始さんの持論です。動物行動学の研究を専門とする松原さんは「生活に合わせて形を進化させてきた生物に対して、中身を知らずに外見をあげつらうのはあまりに失礼だろう」(本書より)と記します。 本書は、私たちが動物に抱く「きれい」「かわいい」といった見た目の誤解、「賢い」「やさしい」といった性格の誤解、「亭主関白」「子煩悩」といった生き方の誤解について、松原さんがさまざまな生き物の実例を挙げながら解き明かし、彼らの真の姿を教えてくれます。 たとえば、松原さんの研究対象でもあり、タイトルにも名前が出ている「カラス」。一般的に「賢い」とされている鳥について「『カラスは賢い』で済ませてしまうと、いろんなことが見えなくなる」(本書より)と松原さん。 たしかに「賢い」のですが、そこにはさまざまな違いが見られます。たとえば、ニューカレドニア島にいるカレドニアガラスは、驚くべきことに、ヒトとチンパンジーにしかできないような「道具を自分で作って使う」ことができるのだとか。また、ワタリガラスやハシブトガラスは鳴き合って仲間を呼ぶことなどから、社会的知能が発達していると考えられます。しかし、ハシブトガラスに鏡を見せるとものすごい勢いで喧嘩を売るそうで、鏡に写る姿が自分だとわかる「鏡像認知」の能力は低いようです。つまり、「賢い」の一言で決めつけるのではなく、どう賢いのか、事実に基づいたさまざまな角度からその動物の行動を見ることが大切だというわけですね。 ほかにも「アフリカで一番ヤバいのはカバ」「カモメの水兵さんはゴミ漁りの常習犯」「実は清潔とも言えないチョウ」「タコは超ハイスペック」「自分の子どもかどうかわかってないカモ」「『美しい』の生物学的意味とは?」など、数多くの動物たちを例に挙げ、動物行動学の視点から彼らの生きざまを教えてくれます。そこに一貫してあるのは、「事実に基づく、ニュートラルな動物への見方」(本書より)です。 間違った認識で勝手に相手のことを決めつけ、ましてや嫌ったりするのは、人間に対してはもちろん、動物たちに対しても良くないことです。動物に対するレッテルを一度すべて外し、まっさらな状態で本書を読んでみてはいかがでしょうか。きっと、新たな認識を得られて、とても新鮮な体験ができるはずです。

ソフィア・ヤンベリ&北丸雄二が語る、「LGBT+とBLM運動」から「マイノリティの中のマイノリティを意識する」考え方
2020年4月24日、ミツイパブリッシングより『ぼくが小さなプライド・パレード 北欧スウェーデンのLGBT+』(著:ソフィア・ヤンベリ/翻訳:轡田 いずみ)が上梓されました。本書は、スウェーデンのLGBT+当事者たちの本音を伝える書籍として注目されています。 本書の刊行を記念して先日開催されたのが、著者のソフィア・ヤンベリさんと、ジャーナリストの北丸雄二さんによるオンライントークイベントです。そこでどのような会話が繰り広げられたのか、その一部をここでご紹介します。 スウェーデンでは同性婚が合法となったり、トランスジェンダーの人の性別変更が法的に認められていたりと、LGBT+先進国といった印象があります。ソフィアさんはスウェーデンの学校教育について、自身の思い出とともに次のように語りました。 「学校でジェンダー平等に特化した授業はないけれど、たとえば歴史の授業で『なぜ女性の発明者が少ないのか』ということから、先生がこれまでの女性の社会的役割について話すことがありました。このようにジェンダーの平等や性的指向の話が授業中に出てくるので、自然とそうした考えが身につきます」 ソフィアさんは23歳のときに自分がバイセクシャルであることに気づきますが、こうした考えの土台があったことから、家族や友だちに隠すことなく話せたといいます。 また、現在大きな広がりを見せている「BLM(Black Lives Matter=黒人の命だって大切だ)運動」は、アメリカではLGBT+団体の連帯が表明されるなど、マイノリティに対する包括的な運動へと発展しています。こうした流れの中でキーワードとなってくるのが「インターセクショナリティ」です。 インターセクショナリティとは、「人種や性的指向など一人ひとりが持つ属性や、それによる差別の構造は多層的で交差している」という考え方のことです。これについてソフィアさんはこう話します。 「LGBT運動の中にもいろいろな人種の人がいるし、黒人の中にもLGBT+の人がいる。フェミニズムは昔から白人女性の問題に集中しているところがあったけれど、黒人の女性や他の人種の女性たちも、『私たちの権利や問題も重要だ』と話すようになりました。『マイノリティの中のマイノリティを意識する』という考え方が、まさにインターセクショナリティそのものなんです」 そして、北丸さんもこれに同意します。 「LGBT+の中でも、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシャル)、T(トランスジェンダー)と、それぞれの中でいろんな分かれ方をしていて、さらにQ(クエスチョニング)もあればI(インターセックス)もある。僕たちはまずLGBT+という大きなところから考えて、今『その中でも一つひとつ違うんだな』ということに気づいた段階にいる。LGBT+は、一つひとつが連帯してインターセクトしていることを表すための言葉。いろんな人たちが重なって共有できる部分・共通した部分を軸にして何かを訴えていったときに大きな力になると思う」 本書には、スウェーデンにあるLGBT+のための老人ホーム「レンボーゲン」に住むゲイ男性・トーマスさんへのインタビューが収録されているほか、ゲイやレズビアンのカップル、LGBT+の子どもを持つ親、移民のLGBT+など、多様性あふれる人々が登場します。ソフィアさんと北丸さんのトーク内容に興味を持った方は、本書を手にとってみてはいかがでしょうか。

決算書をクイズ形式で楽しみながら読み解く! キホンのキが自然と身につく入門書
一般に公開されていることから、誰でも無料で目にすることができる「決算書」。企業に資金を投資する投資家や融資する銀行員はもちろんのこと、企業の経理企画ポジションや管理職クラスの人など、読む必要がある人は少なくないかと思います。とはいえ、専門用語や数字の羅列が続くため、なんの知識もなく読み解けるという人は珍しいのではないでしょうか。 そこで、キホンのキを学びたいという人におすすめしたいのが『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』です。著者は、「日本人全員が財務諸表を読める世界を創る」を合言葉に、ツイッター上で「#会計クイズ」という参加型のイベントをおこなっている「大手町のランダムウォーカー」氏。ツイッター同様にさまざまなクイズに答えながら、決算書を読む力を楽しく身につけられる一冊になっています。 本書は、架空の企業ではなく、実際の企業の決算書を使っているというのも大きな特徴。 「決算書を読む目的は、企業を分析し、分析をもとに具体的な打ち手を考えることにある」(本書より) 実在する企業の決算書をさまざまな視点で読み解くというのはたいへん実践的。決算書を読む力をつけるための最短ルートだというのにも納得できます。 Chapter1では貸借対照表(B/S)、Chapter2では損益計算書(P/L)、Chapter3ではキャッシュ・フロー計算書(C/S)、Chapter4では「B/S+P/Lの複合問題」といった知識について学んでいくことができます。どのようなクイズになっているのか、一例をご紹介しましょう。 企業が保有している財産(現金や建物など)の残高を記録した「賃借対照表」を説明しているChapter1では、ニトリHD、ファーストリテイリング、良品計画という3社の賃借対照表を挙げ、「ニトリHDの貸借対照表はどれか?」を当てるクイズが出てきます。これは、ニトリは「工場と物流設備を保持していることから設備類である『固定資産』の割合が非常に大きくなっている」「32期連続増収増益のため純資産が厚くなっている」といったポイントから、答えを導くことができます。 ほかにも、セブン銀行、三菱UFJ 銀行、スルガ銀行という3社の貸借対照表から各社のビジネスモデルの違いを見つけたり、ユニクロを展開するファーストリテイリング、ZARAを展開するインディテックス、しまむらという3社の損益計算書から、それぞれの利益に影響を与えるポイントについて考えてみたりするクイズも。私たちにとって身近な企業の決算書を取り上げることで、自然と興味を持てたり、推測しやすかったりするという側面があります。 また、各クイズでは熊のアイコンの「大手町のランダムウォーカー」さん本人をはじめ、営業さん、投資家さん、銀行員さん、学生くんといったイラストのキャラクターたちが会話を繰り広げます。彼らと一緒に取り組むような気持ちで進められるのも、とっつきやすい点と言えるでしょう。 何事も義務感に駆られたり、苦しんだりしながら取り組んでも、なかなか知識は身につかないもの。「とにかく楽しく決算書を読めるようになる」ことを主眼に置いているという本書は、これから決算書の読み方を学ぶ人にとってピッタリな一冊ではないでしょうか。


特集special feature


コロナ禍の今読みたい!"ひめゆり"だけじゃない沖縄戦75年目の真実、国家による壮絶マラリア禍
6月23日は「沖縄慰霊の日」。日本国内で唯一、一般住民を巻き込んで激しい地上戦が行われた沖縄県では、県内各地で慰霊祭が営まれます。今年は戦後75年目を迎えますが、新型コロナウイルスの影響により、簡素化や開催中止を余儀なくされています。 沖縄戦と言えば、「鉄の暴風」と呼ばれる空襲や艦砲射撃の被害、ひめゆり学徒隊や集団自決の惨劇が広く知られていますが、八重山諸島で起こった「戦争マラリア」についてはあまり知られていません。 そんな知られざる惨劇の実相に肉薄したのが、ルポルタージュ『沖縄「戦争マラリア」-強制疎開死3600人の真相に迫る』です。著者の大矢英代さんは、フリージャーナリストでドキュメンタリー映画監督。本書で第7回「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」の奨励賞を受賞しています。 本書によれば、当時の波照間島では、マラリア有病地の西表島へ疎開したことで、住民人口の3分の1に相当する552人もの人々が死亡。米軍の空襲や爆撃で命を落としたのではなく、日本軍の命令でマラリア有病地へ強制移住させられたことにより、多くの住民がマラリアに罹患し、八重山諸島全体では3600人以上もの住民が命を奪われたのです。 それにしても一体なぜ、八重山諸島の人々は、マラリアに罹る危険性を知りながらも、軍の移住命令を受け入れ従ったのでしょうか? 実は、波照間島の強制疎開を直接指揮したのは、本土からやって来た山下虎雄という青年。山下は軍のスパイ養成機関「陸軍中野学校」出身であり、住民を統制しゲリラ戦を担当する「離島残置諜者」の密命を帯びていました。住民を懐柔した上で自身の監視下に置き、島の警察官や村長・村議会議員も従え、住民を疎開させたのです。また、軍国主義教育を受けていた国民にとっては、軍命は絶対であり、移住命令に反対する術を知りませんでした。。 命令の背景には、日本軍の作戦遂行上、一般住民の存在が妨げになったこと、捕虜になった住民が米軍のスパイとして利用されることを恐れたとも言われます。著者は強制移住の経緯や、山下の人物像を調べる中で、自分自身に問いかけます。 「もし、私が当時、彼の立場にいたら、どんな行動を取っていただろうか」(本書より) 「私も、もしかしたら彼と同じ行動を取っていたかもしれない」(本書より) 骨の髄まで軍国主義教育に染まっていた25歳の山下にとって、大本営の命令に従う以外の選択肢はありませんでした。そういう意味では、山下も犠牲者の一人であると言えるかもしれません。本書「おわりに」で、著者は以下のように読者に問いかけています。 「私たちの日常生活を見れば、様々な場面で私たちは『従属』している。職場ではやりたくない仕事も、『上司の指示だから』とやらざるを得なかったり、理不尽だと思っていても『社会のルールだから』と従ったりする。意識の有無を問わず、私たちの自己決定は必ず外的要因に左右されている。75年前の日本軍からの『命令』であれ、現国会が次々と生み出す『法律』であれ、今後起こり得る自衛隊からの『協力』であれ、絶対的な権力を振りかざされた時、私たちは―あなたは、私は―果たして、どこまで抗うことができるのか」(本書より) 最終章「なぜ今、戦争マラリアなのか」では、現在進行形で起きている八重山諸島への自衛隊配備問題にも言及し、沖縄戦の問題が今もなお終わっていないという事実を浮き彫りにする本書。コロナ禍では「自粛警察」による相互監視が問題視されましたが、再び同調圧力の空気が蔓延しつつある現代日本に生きる私たちにとって、今読んでおくべき一冊と言えるでしょう。

「繊細な人が生きやすくなる実践テクニック」をHSP専門カウンセラーが伝授!
皆さんの中には「自分は繊細でストレスを感じやすいタイプだ」と感じている人は少なくないでしょう。アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士がおこなった調査によると、「生まれつき繊細な人」は5人に1人の割合で存在することがわかったそうです。もし他の人から「そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」「鈍感力が大事だよ」と言われたとしても、生まれ持った気質であれば、考え方・生き方を変えるのはたいへんハードルが高いのではないでしょうか。 「自分の繊細さを克服すべき課題ととらえるのではなく、いいものとしてとらえる」ほうがラクに生きられるのではないかというのは、『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』の著者・武田友紀さん。武田さんはHSPカウンセラーであり、HSPとは、先述のアーロン博士が提唱した「Highly Sensitive Person(とても敏感な人)」のこと。武田さんは親しみを込めて「繊細さん」という呼び方をしています。 「繊細さん」の特徴を挙げるならば「感じる力が強い」の一言に尽きると武田さんはいいます。繊細さんの神経システムはささいなものにでも反応するようにできているため、ほかの人にとってはなんでもない刺激が、繊細さんにとっては強すぎて、人といると疲れてしまうことが多いのだそうです。そのため、日々のストレスやダメージを減らすために「刺激から自分を守る工夫」が必要となってきます。 その具体的な方法のひとつとして紹介されているのが「刺激をモノで防ぐ」こと。視覚であれば「メガネやコンタクトレンズの度を落とす」「サングラスをする」、聴覚であれば「耳栓をする」「イヤホンで心地よい音楽を聴く」というおこないが、予防対策として効果的だそうです。 また、相手の怒りやイライラの感情を察して苦しくなるという、繊細さんによくあるお悩みに対して、武田さんは「相手の気持ちを察したら、合ってるか言葉で確かめよう!」と勧めています。 とはいえ、「怒ってますか?」と相手にストレートに訊くのは難しいもの。そこで武田さんは「自分の『予想』が当たる確率はどのくらいなのか、日頃から安全な場所で把握しておくのがおすすめ」(本書より)と提案します。一番簡単な方法は「誰かとごはんやお茶に行ったときに、『それ、おいしい?』と聞いてみる」(本書より)こと。これを繰り返すと「人の考えは、案外わからないものだな」「自分の予感は案外外れるんだな」と実感できて、自分のせいではない可能性に目が向くようになるとしています。まわりの人の不機嫌で自分の心がしんどくなる、という人はぜひ取り入れてみたい手法ですね。 このように、物理的・心理的な両面からアプローチされている本書。ほかにも、「相手と境界線を引いて自分のペースを守る方法」「人に頼られるようになる練習」「がんばっても自信を持てないときのチェックポイント」など、実践的なテクニックが満載です。繊細な自分に悩んでいる方の助けになる一冊でしょう。

故・瀧本哲史が2012年"伝説の東大講義"で発した「2020年6月30日にまたここで会おう」の言葉
2019年8月に病のため亡くなった瀧本哲史さんは、東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、エンジェル投資家として活動していました。その一方で、京都大学客員准教授として次世代を担う若者たちの教育・育成にも力を入れていました。 瀧本さんの著書『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』は、瀧本さんが2012年6月30日に東京大学伊藤謝恩ホールで10代20代の若者たちに向けておこなった講義を一冊にまとめたものです。瀧本さんの鋭い切れ味とウィットに富んだ話術でぐいぐいと話に引き込まれます。また、若者たちへの惜しみないエールが感じられ、その情熱に胸を熱くさせられます。 瀧本さんが若者を応援するために配るもの。それは「武器としての教養」です。 「何かすごいリーダーをひとりぶち上げるより、世の中を変えそうな人をたくさんつくって、誰がうまくいくかわからないけれども、そういう人たちに武器を与え、支援するような活動をしたほうが、実際に世の中を変えられる可能性は高いんじゃないか」(本書より) たとえば、現代でも大きな問題として残っている社会保障について。医療費の負担や年金の支給時期など、日本の将来に明るい展望が見出せない人も多いかもしれません。しかし瀧本さんは、この講義で「数字を見てみると、旧世代の方と、みなさんのような新世代の方の人口比ってだいた『2対1』です。なので、じつは、旧世代の人をひとり説得すれば勝ちなんですよ」「中高年の中でもわりと考え方が新しそうな人たちをこちら側に引き入れて、仲間にしていくというのが、僕はけっこうよいやり方なんじゃないかと思っています」と話しています。けっして悲観的な考えに終始せず、実現可能なヒントをこちらに投げかけていることがわかります。 これはほんの一例で、ほかにも意思決定や交渉術、言語の磨き方、リーダー論など、さまざまな"武器モデル"が登場する本書。教養という武器を多くの若者たちに配り、自分で決断できる生き方を説いてきた瀧本さんの言葉は、いま読んでも新鮮で、多くの気づきを得られることでしょう。 本書の講義の中で瀧本さんは、2020年をひとつの区切りとし、「8年後の今日、2020年6月30日の火曜日にまたここに再び集まって、みんなで『宿題』の答え合わせをしたいんですよ」と会場に呼びかけています。当時この講義を聴いていた人たちは8年経った今、どのような答えにいたっているのでしょうか。また、8年後の今、新たに本書を読んだ人たちはどのような考えを抱くのでしょうか。ぜひ皆さんも瀧本さんが投げかける多くのメッセージを受け止め、自分なりの答えを見つけてみてください。

71日間の砂漠生活、食糧は生のヒルとバッタ!? 生還者たちの生死を分けた判断、状況とは一体...
「九死に一生を得る」とは、絶体絶命の状態から奇跡的に助かることのたとえです。まるで映画や漫画に出てくるような話ですが、世の中にはそんな奇跡の生還を果たした人が数多く存在します。生死を分けた判断、状況は一体なんなのでしょうか。その答えは、『本当にあった奇跡のサバイバル60』を読めばわかるかもしれません。 本書は60もの生還劇を収めたサバイバル書籍。脱獄、戦争、難破、誘拐、人質など、ありとあらゆる生還劇が収録されています。たとえば、有名どころでいえば、映画『アポロ13』の元ネタも奇跡の生還劇といえるでしょう。1970年4月に打ち上げられたアポロ13号は、月面に着陸する史上3番目の有人宇宙船になるはずでした。 「地球からはるか32万キロ。アポロ13号は、爆発で船体が大きく損傷する危機に見舞われた。電力と酸素を節約するため、宇宙飛行士は全員、狭い月着陸船に移動し、月を一周して帰還するまでのおよそ4日間、次々と発生する問題に立ち向かった」(本書より) 宇宙船に搭乗していたのは、船長、司令船パイロット、月着陸船パイロットの3名。しかし船には、2人が2日間生命維持できる分のバッテリーしか残っていないうえ、空気から二酸化炭素を除去する水酸化リチウムも圧倒的に足りない状況です。クルーたちは必死で、ない電力を極力節約し、地上では仲間を助けようとエンジニアたちが頭をフル回転させました。 「再突入時の凄まじい熱でカプセル周囲の空気がイオン化し、通信が完全に途絶えた。4分半のあいだ、世界中が固唾をのんだ。3人は無事だろうか? 爆発で耐熱シールドが損傷していないだろうか? 宇宙船が大気圏上層部で空中分解していたら? ようやく無線が通じたとき、管制センターでは歓声があがった」(本書より) さまざまな努力の末、宇宙船は米領サモアの南東の太平洋上に着水。3人の健康状態は、おおむね良好だったといいます。まさにクルーと地上スタッフたちの「意思の強さ」と「生き残るための工夫」が生み出した奇跡の生還劇といえます。しかしサバイバル生活を強いられた際、いつでも頼るべき仲間がいるとも限りません。荒野に捨てられたリッキー・メギーは71日間、1人で灼熱の砂漠を歩き続けました。 「リッキー・メギーは、オーストラリア北部の砂漠4800キロを車で横断中に誘拐され、砂漠に置き去りにされた。靴もなく、身を隠す場所もない中、池で命をつなぎ、トカゲやヒルやカエルを食べて生き延びた。彼の体重は半分にまで減った」(本書より) 持ち物を奪われた彼には、食糧や水はおろか靴も靴下もありません。リッキーは熱い岩の上を裸足で歩き続け、喉を潤すために自分の小便や泥水をすすりました。食糧としてトカゲやイモムシ、カエル、ナナフシなどを食し、時には生のヒルやバッタを口へ運んだといいます。 「暗くなる直前に出かけて、できるだけたくさんの食べ物を集めてくる。1日1食だったが、それで十分生き延びられた。私はひたすら、誰かが見つけてくれますようにと願い、祈った」(本書より) しかし60日目を過ぎた頃から、彼は希望を失い始めます。「きっと誰かが見つけてくれる」と長い間ゆるがなかった信念は次第に弱まり、気づけば"死"を悟っていました。それでもなお、いつもの生活を送り続けたリッキー。地獄の砂漠生活から71日目、ついにその時は訪れます。 「それは紛れもなく車の音だった。突然音の高さが変わるのは、車の音以外考えられない。今起こっているかもしれないことを、すぐに信じる気にはなれなったが、リッキーは小屋から飛び出し、音のする方向に走り出した」(本書より) 病院に搬送された時、もともと105キロあった体重はたった48キロに。皮膚は太陽光線のせいで水ぶくれになり、皮は骨にぴったり張りついて、骨1本1本を目視できたそうです。そんな彼が奇跡の生還を遂げたのは、「生の執着」と「運の強さ」を持ち合わせていたからではないでしょうか。さらに、他の生還者たちもそうですが、「アレがない」「コレがない」といって諦めたりしないのです。「悪魔島」からの脱出を試みた脱獄囚・パピヨンに至っても同様です。 「アンリ・"パピヨン"・シャリエールは終身刑と重労働を宣告され、仏領ギアナの悪名高い流刑地に送られた。創意に富んだ脱獄を何度も試みた末に、ついに酷悪な環境の「悪魔島」からの脱出に成功する。ココナツのいかだで漂流し、ベネズエラに流れつくと、ジャングルを歩き通した」(本書より) たとえ海を渡る舟が腐っていようとも、監獄に何度連れ戻されようとも、絶対に諦めはしません。この自由を追い求める不屈の精神は、私たちも見習うべきでしょう。「仕事がつらい」「起業したいけど自信がない」と弱音を吐くことは簡単ですが、そのまま何もしなければ現状は何も変わりません。サバイバルにしても仕事にしても、生死を分けるのはいつも自分次第なのです。

バーで1杯目にビールはNG? 人気漫画原作者による「知っておきたい作法」
新型コロナウイルスの影響で苦境に立たされているバーですが、徐々に再開の見通しが立ちつつあります。応援を兼ねて、一度はバーに足を運んでみようと思う人もいるかもしれません。しかし、大人の社交場として敷居が高いイメージから躊躇する人もいることでしょう。 そんな人におすすめなのが『バーテンダーの流儀』。本書では、ドラマ化もされた漫画『バーテンダー』『ソムリエ』などで、さまざまな酒と人間模様を描いてきた漫画原作者の城アラキさんが、初心者はもちろん、誰もがバーを楽しめるコツをレクチャーしています。 いざ、バーに行こうとしたとき、あなたならどうしますか? お酒に詳しい友人に聞いてみる、ネット検索で評価の高い店を探すなど、飲食店を探す要領と同じで、と思いがちですが、城さんは「バーに競合店はない」と、この探し方を否定します。 本書によると、街場のバーを絶賛する人もいれば最低と評価する人もいる、それはバーテンダーの個性によるところが大きいからだ、とのこと。城さんは「良いバーがあるわけでも、良いバーテンダーがいるわけでもない。気の合うバー、バーテンダーがいるだけなのだ」と指摘します。 では具体的にはどうすればいいのでしょうか。それはホテルのバーテンダーに、「おすすめのバー」を思い切って聞いてみること。サービス業の人のほうが客の好みを的確に押さえた店を選択してくれる可能性が高いことが、その理由だといいます。 次に気になる点として、バーで何を飲めばいいのかという疑問です。本書では、1杯目は「ロングドリンク」、2杯目は「ショートカクテル」、3杯目は「ウイスキーなどのスピリッツ系のストレート」と紹介。ロングドリンクとは、氷入りの時間をかけて飲むカクテル。ショートドリンクは、三角形のカクテルグラスに入った氷なしのカクテルです。この順番だと胃に負担がかからないといいます。 ここで1杯目としては定番で、これからの季節においしい「ビール」が飲みたいと思う人もいるかもしれません。バーテンダーも「お好きなものを」と笑顔で答えるし、城さんも「文句はない」としながらも、ビール好きを敵に回しても"あえて"推奨しないと語気を強めます。 「ビールならパブで、ワインならワインバーで飲んだ方が絶対に美味しい。(中略)どうせバーで飲むならやはりバーテンダーが手がけた一杯を飲んでほしいのだ。ビールではなくビアカクテルを、ワインではなくワインカクテルを」(本書より) 本書では、こうしたバーでの流儀から、その歴史、バーテンダーという生き方にまで迫っています。巻末には「厳選バーリスト100」も収録しているので、バーに慣れている人にとっても価値ある1冊。家飲みだけではなく、バーという空間を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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